1935年、株式会社萱場製作所としてスタート。油圧装置を核に振動制御とパワー制御技術を駆使した製品を提供する総合油圧機器メーカー。建設機械向け油圧装置や、四輪・二輪用ショックアブソーバー、サスペンションシステムをはじめとして様々な分野で活躍している。日本国内だけでなく、ヨーロッパやアジア、アメリカなど世界中で品質にこだわった製品を提供し続けている。
モノづくりの未来を切り開いてきた男達が、今を語らう。
KYB株式会社 代表取締役社長
大野 雅生
1979年
明治大学商学部 卒業
1979年
萱場工業(株)〈現KYB(株)〉 入社
2004年
自動車機器事業部事業企画部長 就任
2006年
調達部 部長 就任
2019年
代表取締役社長 就任(現任)
株式会社東京精密 代表取締役社長CEO
吉田 均
1983年
明治大学工学部電子通信工学科 卒業
1983年
(株)東京精密 入社
2015年
代表取締役CEO就任(現任)
2016年
NDマーケティング大賞受賞
2020年
日本精密測定機器工業会会長 就任(現任)
大野社長について
吉田
大野社長はどのような学生時代を過ごされてKYB様にご入社されたのですか?
大野
吉田社長と同じく明治大学の出身で、商学部に所属していました。特に部活動等をしていなかったので、仲間と遊んだり六大学対抗野球の応援に行ったりしたのが記憶に残っています。
当時は就職難でしたが、実家近くに岐阜工場があったということと、やはり何といっても自動車産業はこれからかなり伸びていくだろうという予想があったため当社への入社を決意しました。当社は自動車関連と建設機械の油圧関連という、大きく分けて二つの事業をもっていますが、私はその中でも自動車関連の営業に配属されました。数多くの名だたる自動車メーカーさんを担当させていただいていましたよ。
入社後の仕事や大変だったこと
吉田
営業職をご経験されたと伺いましたが、その後はどのようなお仕事に従事されてきたのでしょうか?
大野
営業を二十数年行い、それから企画部門を数年、調達部門も経験し、また企画部門というふうにいくつかの部門を経験しました。
入社当時は所謂OJTを含めた体系的な教育が一切なく、出たとこ勝負で「これはどうやったらいいんだ」と勉強しながら仕事をしていました。社会人も未経験の新人だったため最初の頃は仕事も少なくぼ~っとしていることもあったのですが(笑)、上司や先輩方が仕事に取り組んでいる姿を見て徐々に「こうやるとこういう風に仕事ができるんだ」とか「こうやると声がかかって仕事を貰えるんだ」ということを覚えていきました。今の時代だと全てにおいて「こういう風に教育してください」という指針がありますが、当時はそういうものはなく大変でしたね。
その後、勤務地こそ東京と名古屋のみでしたが、ヨーロッパのお客様が新しい工場を造る時などは海外へ赴いていました。チームで仕事に当たっており、私は技術のプレゼンテーションを中心に行っていました。該当のお客様に詳しい現地の人から事前にアドバイスをもらいプレゼンをしていましたが、やはり日本人がやるのは難しいなと感じましたね。なるべく現地の人がやった方が伝わりやすいなと。
吉田
そうですよね。弊社はドイツのCarl Zeiss社と計測事業において30年程業務提携をしているんですけれども、最初の頃はお互い慣れるまでに時間がかかりました。日本とドイツの文化の違いからか、考え方が違っていて。現在では、うまく互いに技術を共有しながらそれぞれ得意分野を伸ばし、お互いの商品を売り合うことができています。
大野社長は色々な部署を経験されたとのことですが、どの部署でのお仕事が一番苦労されましたか?やはり勤務年数が長い分、営業の記憶が多いでしょうか。
大野
そうですね。営業職というのはお客様と向き合う仕事なので、なかなか難しいと感じる部分が多かったです。OJTが無かったこともあり自分のやりたいように仕事をしていましたが、今振り返ってみると「もう少しこうすれば良かったかな」というのがたくさんあります。
それに、会社を動かしていくのは営業や技術がとってくる新しい情報なんですよね。他社がどのような技術を開発しただとか、業界がどう動いていくかだとか。それらをもって新製品開発だとか戦略だとかの会社の方向性が変わってくるので、やりようによっては非常に深い仕事です。特に当社は既存のモノを売るというよりも、新製品開発をすることが多く、一般的なルートセールスとは少し違っています。お客様と一緒になって新しいものを共同開発していくということが多いため、営業が得てくる情報というのは非常に重要なものなんですよね。
東京精密との関りについて
吉田
大野社長とは、明治大学出身経営者の集まりで初めてご挨拶させていただきましたよね。確か4、5年程前でしょうか。そこからお付き合いを始めさせていただきましたが、会社同士のビジネスという面では、KYB様の前身である萱場工業様の時代から多くの測定機器を導入していただいておりとても感謝しております。
大野
私も東京精密さんの測定機器を始めて導入したのが いつなのか調べたのですけれども、かなり昔からのようで はっきりとした情報が出てきませんでした(笑)。今ある最も 古い記録だと、1986 年に当社相模工場に三次元座標測定機XYZAX GJ 800D という機種を導入させていただいて いたようです。
相模工場だけでも、航空機向けで三次元座標測定機4台、 表面粗さ・輪郭形状測定機4台、真円度・輪郭形状測定機1台、エアマイクロメータ2台。同工場内の別のラインでも 三次元座標測定機3台、表面粗さ・輪郭形状測定機2台。 相模工場だけでこんなに使用させていただいています。
吉田
本当にお世話になっており、ありがとうございます。国 内だけでなく、タイやメキシコを始め世界中の工場で導入いただいており、大変感謝しております。今度とも御社の品質 作りのため、弊社もお役に立てるよう努力してまいります。
ブランドステートメント”Our Precision, Your Advantage”
吉田
年々品質に対する要求が高く厳しくなってきております が、御社は品質に対してどのようなこだわりをお持ちですか?
大野
当社ではブランドステートメントとして、”Our Precision, Your Advantage”という言葉を掲げています。この言葉には、今後も当社が社業を継続していく上で、一般生活者、お客様、そしてお取引先様へ確かな品質をお届けすることが、ステークホルダーの皆様の ”Advantage(優位性)” に繋がるだけでなく、確かな品質によって社員の一人一人が世の中を変えていくことを実感でき、モノづくりの喜びが社員の ”Advantage(長所)” となる。そんな意味が込められています。 この言葉の通り、当社は品質を最重要視した「品質経営」 を行っています。約3年前に、オイルダンパーに関して皆様にご心配をおかけしてしまう事象があり、それ以降、より一層この想いを強くして改革をしております。
吉田
御社は海外の工場も多く、その上近年は新型コロナ ウイルスの影響により実際に海外の工場を見て回り確認するということも難しいと思います。そうなると、品質管理の 取組や報告というのは各地域でそれぞれ行うという形をとっ ているのでしょうか?
大野
基本的に、方針は本社から発信しています。それを受けて、各地の統轄会社が取りまとめて傘下の会社に展開する、という形ですね。その他にも様々な取り組みを行っていて、こまめに各地域から各事業体へと品質に関する報告をするように取り決めています。それに加えて、定期的に各地域の工場がどういった状況なのかという情報が本社にくるような体系をとっています。
生産への取り組み
吉田
御社は世界各地にたくさんの事業所をお持ちで、手広く色々な分野の事業に取り組まれていますよね。これだけ大きな規模感の会社さんだと部品の共通化なども大変だと思われますが、何か取り組みをされていますか?
大野
まさしくその部品の共通化というのが一番難しいところです。当社の海外事業所は M&Aしたところが大半であるため、仕様や部品、作り方が各所で違っているんです。そうなるとBCPだとか 、数をまとめて発注して単価を安くするだとかができない。ここを変えていこうとすると非常に大変で年数がかかります。しかしなんとかしなければ競争力がついてきませんので、どういったやり方がいいのかと模索しています。
部品の共通化に加え、製造に関しても同じ設備同じ工程で誰がやっても同じ製品ができるようにしていきたいですね。以前に比べ、海外各所の人件費もどんどん上がってきていますし、日本は少子高齢化がより一層進んでいく。今まではマンパワーをかけていましたが、これからは減らしていかないといけません。究極的には無人化工場に近いものを目指したいと考えています。そしてそうなると、一つの工場により多くの設備が入ることになりますよね。そこからはもう、IoT だとか機械の設備保障だとかを事前にリサーチして稼働率をいかに上げていくかが勝負になってくる。そのため、各地バラバラの設備や工程で行っていると、管理が難しく手間がかかり、非常に大きな問題点となると感じています。
吉田
様々な統一に加え、自動化も注力されていくということですね。測定機器でも現在、自動化のご要望が非常に多くなってきています。従来、測定機器というのはラインから製品を抜き取り検査室で検査するという使われ方が一般的でした。しかし近年はラインの中で製品を造りながら測定し品質コントロールをする、ということを目指すお客様が増えています。製造ラインの環境というのは様々ですから、インライン化を目指すにあたり耐環境性を向上していかなくてはなりません。精密測定機器は温度変化にも非常に敏感ですし、その他にも防塵、オイルミスト対策なども行わなければならない。環境の悪い中でも精度の高い測定ができるようにと、弊社では開発に熱心に取り組んでいます。
また、昨今はSDGsやESG対応含め、カーボンニュートラルといった環境関連についても変革の時期となっていますよね。御社ではどのように対応されていますか?
大野
今年7月に社長直下のESG推進室を設置し、全社の活動として積極的に取組を強化しています。既に太陽光発電の設置や廃材の再利用の他、健康経営を推進して健康経営優良法人の認定を2年連続で取得しています。
製品の面でも、各国の環境規制対応の他、低フリクションや電動ポンプといった高効率を始め、軽量化、LCAへの取組を行っています。
今後の展望
大野
当社の主要な市場である建設機械業界、自動車業界では、CASEやMaaSなど100 年に一度の転換期を迎えています。
建設機械業界では、先ほども少しお話に出ましたが自動化や無人化、電動化がトレンドとなっております。オペレーターの経験に頼らない電子制御化・ロードセンシングのニーズが高まっていますが、当社ではミニショベルでのロードセンシングの実績による強みを活かし、更なる高性能製品の開発に取り組んでいます。また、油圧ポンプ・シリンダー・モーターのラインアップによるシステム化を強みとして拡販活動も行っています。
一方の自動車業界では加速するEV化に対し、当社コア技術を深化して既存製品への付加価値を高め、摺動特性改良ショックアブソーバである「プロスムース」やスウィングバルブといった既存ビジネスの拡大を進めています。また、電気は従来のエンジンよりも音が静かですから、それに伴いショックアブソーバにも静粛性が求められます。そのため、油圧技術を応用しそのニーズに応えられるような製品の拡大にも取組んでいます。その他、次世代プラットフォームへの対応製品開発なども進めています。従来の自動車メーカーに加え、新興メーカー、システムメガサプライヤーも潜在顧客として捉えていますので、営業・技術・事業が一体となり、お客様へのプレゼンを通して潜在ニーズの発掘と製品化対応を進めています。
吉田
近年モノづくり革新が急速に進んでおりますが、御社を取り巻く環境もかなり変化しているのですね。新たな時代へと進み未来を切り拓いていく御社に、新たなモノづくりの可能性を測定機器の面からご提案できるよう、弊社も全力を尽くしてまいります。
KYB株式会社
1935年、株式会社萱場製作所としてスタート。油圧装置を核に振動制御とパワー制御技術を駆使した製品を提供する総合油圧機器メーカー。建設機械向け油圧装置や、四輪・二輪用ショックアブソーバー、サスペンションシステムをはじめとして様々な分野で活躍している。日本国内だけでなく、ヨーロッパやアジア、アメリカなど世界中で品質にこだわった製品を提供し続けている。